2021.05.10
ココ・シャネルの信念と継承
4月28日、特別講義の一環として、シャネルの元社長 リシャール・コラスさんの講演がありました。時節柄、ハイブリッドつまり東京キャンパスでの対面と、名古屋、大阪キャンパスを含むオンラインとのミックスでした。
「伝統と革新」と題したスピーチは、世界的ラグジュアリー・ブランドがどのようにして作られ、維持されているかについての、衝撃的とも言えるメッセージでした。
すべては創始者ココ・シャネルの強い想いと信念に発したのです。それは伝統に根ざす高度な職人の技を生かして、より良い未来をつくるという点にあります。伝統は「守る」ものではなく、「未来に生かすもの」、それがわれわれへの第一のメッセージでした。
そのために彼女は常に固定概念を排し、世の風潮や流行に目もくれず、自分の感性を信じて信念を貫きました。当時は喪服に限られていた黒という色や、男性の下着の素材であったジャージを女性の衣裳に使いました。シャネル5番の瓶の形は、少しづつ変えましたが、それは定期的ではなく、マーケット調査によるのでもなく、彼女の感性の赴くままでした。
修道院で孤児として辛い日々を過ごした彼女が、なぜこのような才能を育んだのかは分かりません。しかし講演の帰り道、タクシーの中でコラスさんが言うところによると、ココ・シャネルはストラヴィンスキーやコルトーのような音楽家、マチスのような画家と親しくし、彼らが貧しいころは家を貸したりしてサポートしたそうです。最先端の優れたアーチストを見い出し、彼らと常時接することで、最高の美意識を磨き続け、彼らがつかんでいる社会の流れを素早く読み取ることができたのでしょう。
いまのシャネルも、このココ・シャネルの信念を受け継ぎ、流行や市場に妥協しません。そしてアーチストを大事にしていることは、日本シャネルの活動(若いクラシック音楽家を支援する「ピグマリオン」プログラムや、いま銀座ネクサスホールで開催中の若手漫画家の展示会など)から明らかです。
学生のみなさん、大学では、最高の職人の技と、世界を見る眼を養うとともに、国内外の最先端のアーチストと付き合って下さい。それによって高い美意識を磨くことを日常化し、一生続けて下さい。
日本の伝統美を学びつつ、いろいろなアーチストを招いて議論をするサークルをつくってはどうでしょう。