日本最高峰の『装苑賞』での経験を糧にイタリア留学へ。人生の楽しさを感じられるファッションをつくりたい
2023.08.21
本学には、海外の一流大学・大学院や専門学校への留学をバックアップする校費留学制度があります。これは、留学に必要な入学手続きや渡航費・入学金・学費1年分を本学が負担し、世界での学びを実現することができる制度です。 詳しくはこちら
今回、イタリアの一流大学、Domus Academy(ドムスアカデミー)への校費留学を決めたのは、ファッションクリエイション学科4年・成瀬擁汰さん。成瀬さんは日本最高峰のファッションコンテスト、第97回装苑賞でファイナリストに選出されるなど、実績を上げながら精力的に活動しています。
※装苑賞とは…山本耀司、高田賢三、コシノジュンコなど数多くの著名デザイナーを輩出してきた国内最高峰のファッションコンテスト。
昨年度は本学学生がグランプリを獲得しました。
→第96回装苑賞にてグランプリ(賞金100万円)を在学生が受賞しました
日々の勉学を通じて得たものとは。留学にかける思いとは。そして後輩に伝えたいこととは。成瀬さんにインタビューを行いました。
個性をやみくもに浪費する現状に大きな問題を感じるようになりました
Q. コンテストへの挑戦等、精力的に活動している成瀬さんですが、今回校費留学を希望した理由を教えてください。
本学では、ファッションという特性を活かし、通常だと越えることのできない領域や世界、隔たれたもの同士に橋をかけるクリエイション、「越境するファッション」を自身の研究主題におき、人間と衣服、衣服と社会の関係性を再考させる作品を制作しておりました。このような活動をおこなう中で、私はSNSが急速に普及する現代社会において、個性をやみくもに浪費する現状に大きな問題を感じるようになりました。この問題と向き合う中で、自分の中で育まれてきた、隠すことで生まれる想像の余地を楽しむ日本特有の価値観「隠す美学」と、本学の講義を通じて学んだ、欧米で散見される自身の身体美を肯定する「魅せる文化」、この相反する二つの価値観や考え方を融合させることで、個性の浪費という現代社会の問題を解決できるのではないかと考えるようになりました。これを実現させるために、欧米圏の美的センスや身体へのアプローチ、特有の色彩感覚など、現状自分に足りていないものを実践的かつ有効的に身につけるために、校費留学を志望しました。
Q. 留学先の学校を選んだ理由はなんですか。
ドムスアカデミーでは、1年間で学生と企業が連携して企画デザインを行うプロジェクトの他に、一流ブランドへの長期インターンを必須プログラムにしたコースがあります。3年次に体感した現場での実践的な経験を、日本とは全く異なる価値観を持つ国で同様に体験できるプログラムを提供している点が、自分の目標を実現させるために一番マッチしていると考えて選びました。
Q. 受験ではどんなことをアピールしましたか。
この大学で一貫して行なってきた自主研究「越境するファッション」の作品群をメインに紹介しました。その中から、コンテストに通過した作品たちの解説を踏まえつつ、自身が留学することへの必然性をアピールしました。それだけではなく、一年次と二年次にデザイナーズブランドへ自主応募してインターンを行なった際の成果物も紹介し、実践の現場での多種多様な経験や自身の積極性と自主性をアピールしました。
実際に面接で使用したもの
歴史ある装苑賞という場で自分の作品を披露できたことに感動
Q. 装苑賞についてお聞きします。作品のテーマとコンセプトを教えてください。
テーマは、「現実とデジタルの交錯」。
デジタル世界の入り口となる、スマートフォンやパソコンの液晶画面に使用される「偏光版」を服の素材に用いることで現実世界の肉体を装飾しました。インナー(ボディスーツ)は、フィジカルな粒子を想起させるオリジナルスパンコールを連ねて制作し、アウターは、デジタルなポリゴンを連想させる三角形で立体装飾を作成しました。「偏光板」の特性を生かし、インナーとアウターのレイヤードによって服の見え方やデザインが変わりゆく、ファッションの新しいレイヤード構造に挑戦しました。インナーの曲線的世界とアウターの直線的世界を重ねることで、二つの世界の境界を曖昧にして、中と外、曲線と直線、フィジカルとデジタル、本来交わることのない二つの世界を繋ぎ合わせ、私たちの未来-OUR FUTUREを表現しました。
Q. 2次審査で審査員の方と対談した感想をお聞かせください。
ポートフォリオ審査から一貫して森永先生(※)に審査していただいたのですが、作品のギミックに興味を持ってくださり、実際に作品をご覧になった上で素材の新しさや表現技法の面白さを評価していただきました。森永先生だけでなく、審査を運営する装苑編集部の方々からも作品を披露した際に歓声が上がった瞬間はとても嬉しかったです。対談で提出した作品は、大学の先生とシルエットや表現技法を何度も模索したものだったので、その苦労が報われたように感じました。一方で、作品の脆弱性によって作品の完成度が低く見えてしまうというご指摘を受けました。作品の細部までご覧になった上で、作品をより良くするための具体的なアドバイスをいただきました。短い対談ではあったものの、今後の作品制作においても活かせる、考え方の新たな視点を学ぶことができました。
※森永 邦彦さん…ANREALAGEデザイナー。最先端のテクノロジーを取り入れ、光の反射する素材使いや球体・立方体などの近未来的デザインを手掛ける。国内外の美術館での展覧会にも多数参加。主な経歴に「竜とそばかすの姫」衣装担当、2021年(日)第32回タカシマヤ美術賞など。
対談にあたって制作した資料
Q. 公開審査会の感想を教えてください。
他のコンテストとは全く異なる緊張感の中、著名な審査員の方々に自分の作品を見ていただけたことは非常に嬉しかったです。ランウェイに自分の作品が登場した時は、歴史ある装苑賞という場で自分の作品を披露できたことに感動して感慨深い気持ちになりました。また、他の候補者の方ともお話しする機会があり、お互い半年にも及ぶ長い期間の制作に対する苦労を称え合い、他では得ることのできない貴重な交流ができました。もちろん、受賞ができなかったことへの悔しさはありますが、素晴らしい作品を生で拝見し、審査員やクリエイターの皆さんと交流する中で、自分の中にあるクリエイションへの情熱が再燃し、審査会前よりもモチベーションが高まりました。
Q. 今回のコンテストに関して、思い出に残っている出来事やかけられた言葉があったら教えてください。
審査会終了後、審査員の方々から講評をいただく時間があったのですが、それぞれの審査員から異なる視点のご指摘やアドバイスを受ける中で、自分では気付けなかった自身の強みと弱みを発見することができました。その中で、「発表のTPOを考慮した作品制作の重要性」を痛感しました。今回はファッションショーのランウェイ形式での発表でしたが、「ランウェイ上だけでは作品の魅力が十分に伝わらない」とのコメントをいただきました。コンテストのように発表形式が制限される機会においては、作品を発表するTPOに沿って、クリエイションのアウトプットをデザインし直す必要があると学びました。自分の伝えたいことを表現することだけにフォーカスした物作りで満足せずに、最終的に自身のクリエイションを「誰が着て、どこで披露して、誰が見るのか」、クリエイションとディレクションの双方を包括的に考慮してデザインへ反映できるような物作りをすることが大切だと感じました。
今回の装苑賞を通して、ファッションとは、着る人と見る人の二つの視点が両立して成り立つものであるという根本的なことを再認識することができました。
(余談ですが、審査会終了後、森永先生が自分の作品の一部を記念に持ち帰ってくださったのはとても嬉しい出来事でした。)
学科を超えて様々な背景を持つ人たちと出会えた
Q. 国際ファッション専門職大学を進路として選んだ理由はなんですか。また入ってよかったと感じる部分を教えてください。
教養科目と実習科目の双方に充実した専門職大学という新しい大学の誕生に、既存のファッション教育では得られないものが学べるのではないかという期待を感じたのが、この大学に進学した大きな理由です。また、国際的なプログラムが多く用意されている点も本学入学の決め手になりました。
入学後、自分の自主活動を通じて様々なバックグラウンドを持つ人たちと学科を超えて出会うことができたのが一番良かったです。彼ら彼女らと一緒になって作品を自主制作したり、そのメンバーたちが各々でコンテストに通過したりインターンで活躍したりと、それぞれに努力し邁進する姿は自分の創作意欲を刺激してくれました。互いが互いを切磋琢磨し合う関係を築けたことが、自分にとってかけがえのない財産となりました。また、自分の制作活動を一年次から一貫して指導してくださった教養科目の先生(熊田先生)と本学で出会えたことは、自分のクリエイションに対するアプローチが飛躍的に成長した大きな要因であると実感しています。ファッションはもちろん、全く異なる領域の視点を持つ教員にも作品を講評してもらえることは、本学にいる学生の特権だと思います。
Q. 将来の夢、目標、なりたい職業を教えてください。
私は、日本の「隠す美学」と欧米の「魅せる文化」、この「隠す」と「魅せる」という、相反した二つの要素を兼ね備えるファッション、「CAMO-FASHION」(camouflageの語頭からとった造語)を創造していきたいと考えています。現代社会が求める個性の過剰消費に対して、自己が形成しきらない若い頃から自身を切り売りするような現状を再考させるようなクリエイション、自己肯定感の低い現代人に向けた「自分が自分であることを認められるファッション」を世界に発信していきたいです。ただ生きるという行為自体が苦しさを伴う難しいものとなっている世の中でも、人生を謳歌することの楽しさを感じてもらえるようなクリエイションを提供していきたいと考えています。
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