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生成系AIに関する本学の考え方について
2023.07.21
テクノロジーは絶えず進歩していきます。新しいテクノロジーはこれまでの「常識」や「概念」を覆すことになりますが、他方でそれを的確に利用することができれば、新たな可能性やイノベーションを生むことができます。ファッション業界では、2023年4月に「AIファッションウィーク」がアメリカ・NYで開催されました。ここでは、誰もがAIを使ったデザインで応募することができ、最終的に審査員に選ばれたデザインが実際に制作されるという、新たなファッション産業の幕開けとなりました。このように、ファッション業界もテクノロジーを次々に取り入れて、変革をはかっています。
ファッション・ビジネスを専門的に研究し、学ぶ本学では、生成系AIの利用を禁じるのではなく、むしろ活用方法などを教育に組み込み、実践で使いこなせる人材を育成することを目指したいと考えています。しかし、現在の社会は、生成系AIが誕生することを前提に構築されていません。国内外で生成系AIの取り扱いにつき、さまざまな議論がなされていることから明らかなように、留意すべき点もあります。以下、特に画像生成系AIについての可能性とリスクを述べておきます。
また本学では、AIの利活用を試みる一方で、これまで重要視してきた、現場に足を運び、他と対面で交流し、自らの目や耳、そして手を動かしながらアイディアを生み出す「思考力」や、「人間の本来の感覚」に根ざした「創造力」を、引き続き教育に組み込んでいきます。なぜなら、AIを「正しく使う」ことは、人間そのものについて深く知ることにもなるからです。
なお、講義によっては、学生による生成系AIの利活用を禁止や制限する場合もあります。各教員に相談をしてください。
ファッション業界における画像生成系AIの可能性
- これまでデザインを脳内でイメージできても、デザイン画として表現することが苦手で、デザイナーになることを諦めた学生もいたかもしれません。しかし今や生成系AIに的確に指示を出すことで、自分の思い描くデザインを作成する上で良いヒントを得ることができる可能性が高まっています。誰もが自分のデザインを具体化して表現できるようになることは、ファッション業界に対する大きな貢献となるでしょう。
- 生成系AIは、世界中のインターネット上にある情報がデータベースになっています。従来は自身が行うリサーチで得られた情報の範囲内でしか考えられなかったのに対し、生成系AIを使うことで膨大な情報をリソースにして、自分のイメージに合う画像を生成することも可能となります。そこには、新たな気づきや発見もあることでしょう。
- 生成系AIは、コンセプトやアイディアを数秒でビジュアライズすることを可能とします。頭の中に描いたデザインの再現率が60%程度のものでも、そもそもイメージが煮詰まっていなくても、まずはビジュアライズしてチームと共有して議論し、そこからデザイナーがスケッチで最終イメージに近づけていくなど、クリエイションのプロセスを変えることができます。
画像生成系AIを使用する際に必要となる能力
生成系AIに的確に指示を出す能力
例えば、生成系AIに「海をイメージしたファッション」を生成するように指示したい場合、「海」を「Sea」と入力するとイメージした画像が生成されませんでしたが、「Ocean」と入力するとイメージに合う画像が生成されました。このことは、それぞれの生成系AIの特徴をつかむ必要があることを物語っています。
英語力
生成系AIは、モデルやバージョンによりますが、2023年6月時点で「Stable Diffusion」や「Midjourney」は「英語」での入力が基本となります。よって、英語の語彙力があるとより効果的に使いこなすことができます。
実現化する能力
生成系AIを活用して、自分が想い描くようなデザイン画ができた後、それを実際の服やプロダクトの形に実現化するのは「人の手」です。そのデザイン画にいかに機能面を加えるか、どんな素材を使うか、縫製をどうするか、製造にかかる手間やコストをいかにコントロールするか、そしてどのように販売していくのか。これらは人間が思考し、判断していく必要があります。
コンセプトメイキング
生成系AIはあくまでも利用者の指示に従って、データの中から適切と思われるものを抽出してビジュアルを生成するものです。従って社会背景や世の中の風潮、特定セグメントのニーズ、ブランドのポリシーや打ち出したいメッセージ性などから自分独特のコンセプトや企画を考案し、クリエイションにコンテキストを与えるクリエイターのスキルや経験の蓄積は、これからも重要であり続けます。
幅広い教養を身につけること
リスクに関する項でも言及しますが、生成系AIはあくまでも統計的に情報を処理してビジュアルを生成します。このためバイアスを強化し、クリエイションを画一化する可能性を否定できません。
例えば「genderless」というキーワードを利用したときに性別を指定していないにも関わらず男性モデルばかり生成されたり、「kimono」というキーワードに対して日本人モデルがあてがわれたりといったことが起きます。
生成系AIが持つバイアスに意識的であるためには、常に幅広い教養や語学力を身につけ、マイノリティの存在に目を向け、クリエイションの幅を広げる姿勢が重要となります。
【重要項目】リスク(文章生成系AIにおいても同じ)
誤った情報や偏った情報
生成系AIの情報源は、インターネット上のものに限られます。インターネットの情報のなかには、虚偽情報や偏った解釈がなされた情報が多く含まれます。したがって、AIによって生成されたモノが全て正しいとは限りません。生成系AIによって示された映像が、人を傷つけたり、不快にさせたり、誰かに損害を与えるような表現になっているかもしれません。それを判断するのは、人間である「あなた」自身です。
文章の生成系AIを使用する場合は、当然のことながら一次情報の確認を怠らないようにしましょう。また、「虚偽」を見抜くには、日ごろからAIだけに頼らず、メディアのニュースなど様々な情報に触れておくことが重要です。
権利侵害の可能性
2023年5月にディープラーニング協会が発表した「生成AIの利用ガイドライン【簡易解説付】」を必読してください。以下、「生成物を利用する行為が誰かの既存の権利を侵害する可能性がある」の箇所を抜粋(原文ママ)し紹介します。
- 著作権侵害
- 生成AIからの生成物が、既存の著作物と同一・類似している場合は、当該生成物を利用(複製や配信等)する行為が著作権侵害に該当する可能性があります。
そのため、以下の留意事項を遵守してください。
- 特定の作者や作家の作品のみを学習させた特化型AIは利用しないでください。
- プロンプト1に既存著作物、作家名、作品の名称を入力しないようにしてください。
- 特に生成物を「利用」(配信・公開等)する場合には、生成物が既存著作物に類似しないかの調査を行うようにしてください。
- 商標権・意匠権2侵害
- 画像生成AIを利用して生成した画像や、文章生成AIを利用して生成したキャッチコピーなどを商品ロゴや広告宣伝などに使う行為は、他者が権利を持っている登録商標権や登録意匠権を侵害する可能性がありますので、生成物が既存著作物に類似しないかの調査に加えて、登録商標・登録意匠の調査を行うようにしてください。
- 虚偽の個人情報・名誉毀損等
- 【ChatGPT】などは、個人に関する虚偽の情報を生成する可能性があることが知られています。虚偽の個人情報を生成して利用・提供する行為は、個人情報保護法違反(法19条、20条違反)や、名誉毀損・信用毀損に該当する可能性がありますので、そのような行為は行わないでください。
- (注釈)
- 動作を促す文章
- 工業デザインを守る権利
安定利用できない可能性がある
生成系AIに関する法律は、他から独立したものではなく、著作権、プライバシー、バイアス、社会形成などに関わるため、その関連が世界中で議論されています。生成系AIの用途が制限されたり、特定のサービスが利用できなくなる事態を否定できません。また適法な用途であっても、一般的な倫理観からはずれる利用方法をすることが、SNSなどで炎上を生むリスクもあります。
絶えず世論や法改正などに関する情報収集に心がけることが重要です。
クリエイティブスキルを身につける機会を逸する可能性
デザインや文章を生成するAIを活用することで課題を効率的に、短時間で行うことが可能になりました。現時点でもプレゼンテーションを作成する上で、自動レイアウトツールを活用する学生は少なくありません。
しかしながら、この効率化は「クリエイティビティを鍛える機会」を減らす結果を招きかねません。単に効率化を目的とするのではなく、学生である期間に何を身につけておくべきかを考えなくてはなりません。長期的な視点で学生は目的設定を行い、教員はそれを支援することが求められます。
授業等の課題制作への利用(文章生成系AIにおいても同じ)
- 単に生成系AIだけに頼り、学生自身の考えやオリジナリティのない提出物は、一切の評価対象になりません(単位認定しない)。生成系AIは、あくまで「補助的ツール」であり、これが制作の主体になってはならないからです。学生は「AIを使いこなす人材となる」べきであり、AIに使われる人材になることは避けるべきです。
- 生成系AIを利用した場合は、制作プロセスのどの部分に利用し、学生自身の考えやオリジナリティがどこかを明示するよう指導することが求められます。AIに与える指示文に創作性が認められる場合もあり、このようなケースでは指示文を提出することで評価対象とすることができます。
- 教員は、課題を学生に提示する際に、事前にその課題内容を生成系AIに入力して、どのような生成物ができるのかを確認してください。それによって、学生がどのくらい生成系AIに依存しているのかを確認することができます。
インフラの措置
生成系AIの活用を推進する一方で、教育機会において不平等があってはなりません。大学では以下のような措置をとっています。
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- パソコンの貸出
- 特に画像を生成するAIを利用する際には、タブレット端末よりもパソコンを使用することが望ましいです。金銭的理由等でパソコンが購入できない場合は、大学がパソコンの貸出しを行っていますので、教員に相談してください。
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- デジタルディバイドの積極的是正
- パソコンなどデジタル分野が不得意な学生もいます。教員はそのことにも留意しながら課題を設定するようにしてください。
以上